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経済対話(前半)②パネルディスカッション

田波耕治氏(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問、元国際協力銀行総裁):

 経済危機は金融面から発生した。これを実体経済から見ると、結局アメリカの個人消費への依存は限界だということだ。よって、新しい発展モデルが必要だと。
中国は内需の拡大策により、堅調な成長を維持している。世界経済をかなり支えたと言える。
 しかし中国経済をみると、貿易依存度が高い。内需拡大が最大の問題だ。確かに旧来型の消費はまだ続くだろうが、財政による内需拡大はいずれ止まるだろう。日本は直接の金融危機の影響は受けなかったが、円安に乗った外需依存のため影響を大きく受けた。
 私は政府にいたので、70年代からずっと、「内需拡大だ」と言われてきた。しかしこのツケが今来ていて、財政赤字もたまっている内需をどう拡大するか、答えがないのだが、2つの視点があると思う。
 まずは、アジア経済全体を視野に入れること。日本は少子高齢化が進んでいる。日中経済は一体として発展していくことが大事だ。アジアは、人口も多く、これからの経済を引っ張っていくことになるが、その中で日中関係が重要性なのは間違いない。

 域内貿易を見ると、広域的な協調ができつつある。FTAなども進み、規制などの強調も進むだろう。
 しかし、その前に基本的な課題があると思う。第一に貧困の削減だ。貧困はテロなどの反社会的な活動にもつながる。日中はアジアの貧困に立ち向かわねばならない。日本は円借款により、アジアのインフラに資金を回してきた。これはWinWinといってよい。資源確保争いという面でなく、協力していくべきだ。
 2点目、これは中長期の問題だが、少子高齢化、地球環境だ。こうしたマイナス要因を乗り越えていかなければならない。少子高齢化に対応した、新しい需要を掘り起こしていく必要がある。
地球環境については、第一には省力化をすすめることだ。日本は、自然循環型の社会というところがあるとおもうので、そういう点で協力していきたいと思う。

小島氏:

 非常に重要なポイントだったと思う。ありがとうございます。

項兵氏:

 日本から学ぶべき点は多い。経済規模において世界第2、第3位の国として、問題に向かい合わねばならない。

王守栄氏(中国気象局副局長):

 気候変動について。世界の気候は人類の活動により、持続的な変化をしている。気温が持続的に上昇し、経済に色々な影響を与えつつある。中国では色々なレベルで、気候変化に対応している。国連の枠組みにも参加している。
 日中は協力しながら対処していかなければならない。この問題については両国は共同声明を発表するなど良好な関係を築きつつある。中日の技術訓練も行われており、CO2の貯蔵なども計画されているので、観測、予測については良いメカニズムができているといえる。
 中国は気候、環境に対するスタンスを発表した。今後両国は多く協力できるだろう。そこで3つの提案をしたい。
1.研究や観測、特にアジア地域におけるものでの連携。
2.気候変化の影響への対応で、協力していくこと。
3.循環経済という面で、日本は多くの経験をしてきたので、それにおいて協力できるものがたくさんある。
 色々な可能性がある。気候変化は、中日における新しい戦略的なポイントでしょう。

深川由起子氏(早稲田大学政治経済学部教授):

 第一に、欧米からの風当たりは強い。内需主導に切り替えていく必要がある。日本は輸出依存度は中国より低い。医療や、規制されている分野などを変えていかないと、内需は形成できないだろう。また中国はインフラ主導でもしばらくは持つだろうが、日本の経験からも、それへの依存は危険だ。ハードをやると同時に、ソフトもやっていく必要があるだろう。
 あと、高齢化が進むと、コンパクトに都市に居住する方が効率がよくなる。すると都市インフラが必要になっていく。そこは日本の経験が生きるところだと思う。
 第二に、経済は成長には戻っていくだろうが雇用、とくに若い人の雇用なき成長になる恐れがある。中国でも若い人は就職難だ。日本では、教育の側と、労働市場のニーズが結びついていない。どういうふうに、労働市場で専門職のミスマッチをなくすための施策をやっていくかということが問題だ。専門職については、自国民だけで賄おうとするのは日本だけだろう。まだ協力の余地は多い。
 最後に、資源やエネルギー政策。ヨーロッパの圧力があるが、排出権取引を途上国にやらせるよりも、省エネをやっていくことが大事だろう。日本では、石油がないために、効率の良い自動車をつくらねばならなかった。そういう制約があって、そこに投資していくべきだ。
 もうひとつは、中国が環境に積極的に取り組み、ブランド力をつくっていくことだろう。

項氏:

 中国経済のポイントは、サービス産業の割合が少ないということだ。また、政策変換の余地は大きい。環境保護については、代償を払ってでも、世界規模で協力していかねばならない。

李明星氏(中国企業聯合会副理事長兼国際部主任):

 まず考えうる協力は、市場メカニズムを完備していくことだろう。今回の金融危機は、アメリカ中心の経済システムの限界を示したことで、もっと合理的、健康的な経済メカニズムの形成に繋がると思っている。アジアは自立的な文化ももっており、協力して貢献していけるはずだ。
 次に金融面だが、両国は外貨準備を多く保有している。中国の貯蓄率は高く、アメリカの経常収支の赤字を穴埋めしている。大きな市場を持ち、資産をもっている。しかしアメリカの赤字の穴埋めの持続は難しいため、アジアで協力していかねばならない。
 3つ目は内需拡大。中国では、ローレベルの投資が多く見られるが、過剰投資にはリスクがある。また、エネルギー効率の面での協力の余地は大きい。
 4つ目に、中国の貯蓄が高いのは、社会保障のシステムが不完全であることが原因だ。将来に対する不安があって貯蓄しているということだ。日本でも、年金は重要な問題となっているが、少子高齢化の構造に、両国は入りつつある。どうやって、安心できる社会保障体制をつくるのか、という面での協力が求められる。
 5つ目は分担と協力。これは貿易の基礎である。経済効率を高めるひとつの要素だ。アジアのそれぞれの国の役割分担をやっていくことが必要だろう。政府の間で、決心をもって推進していかなければならない。

井口武雄氏(三井住友海上火災保険シニアアドバイザー、同元会長):

 環境保全、省エネの話があった。私は温室効果ガスの排出削減が非常に重要だと思っている。リスクを扱ってきた者として発言したい。
 温室効果ガスによる、巨大な自然災害で最も影響を受けるのは低所得者だ。低所得者は、災害時に備えた蓄えはなく、回復することが自力ではできない。国の財政が弱ければそれによる救済も困難だ。
 それを救うのは、人道的にはもちろん必要だが、反社会的な活動などのリスクを防ぐ観点からも重要だ。そういう観点から、新たな機構をつくってはどうか。民間の金融機関、保険機関、国際金融機構、中銀などが協力し、自然災害にあった低所得者を救済するための機構をつくる。
 中国と日本がこうした機構の設立に協力すれば、必ずや実現し、極めて友好的な手段となるだろう。さらに、マイクロファイナンスやマイクロインシュランスなど、低所得者がアクセスしやすい金融の仕組みも重要だろうと思う。中国、日本が、こうした大きな争いのない分野で協力していくことだと思う。

呉垠氏(零点研究コンサルティンググループ副総裁):

 市場経済の研究をしているので、その観点から述べたい。経済危機の影響についてだが、概念が変わった。人の経済という概念が深まったと思っている。消費については中産階級が足りていないという構造的な問題がある。生産におけるイノベーションについては、われわれの調査結果からは、生産力とイノベーションには、人の要素が関係している。
 「仁」というものが、個人的には重要だと思っている。「和」「仁」が協力の基点になる。まず市場調査などを行って、様々な基準をつくっていく。それから文化、社会での交流を深めて、「仁」を高める。そうやって現状を打開していく必要がある。

項氏:

 あと10分です。会場からの質問を取ります。

遅氏:

 福川さんの、内需拡大の財政政策上の問題について。財政政策による内需拡大は2~3年は持続していくだろう。現在、主に重点プロジェクトへの投資から、社会サービスに移りつつあります。これは構造改革と深く関わっている。

河合正弘氏(アジア開発銀行研究所所長):

 遅先生の発言について。GDP重視という考えが改められつつある、という話があったが、具体的にはどういうかたちであらわれているのか。もうひとつ、低炭素経済への移行を言われたが、これから低炭素経済に向けて、どういうコミットメントを中国はしていくとお考えか。
 日本では鳩山首相の演説があったが、中国は、どういうかたちで、どういう指標を使ってやっていくのか。

遅氏:

 GDP至上主義は是正されるべきだとしたが、事実上続いてはいる。ある程度重要視しているのは確かだ。しかし、いまの幹部の選考体制などは、非常に歪曲された部分が出てきたこともあり、内需拡大の目標、構造改革については、実現できない部分もあるかもしれない。GDPにとらわれた地方幹部が、実行しない可能性があるためだ。地方の政府からそれらを受け入れなければ、われわれの計画は実行できない。行政改革というのが非常に重要で、幹部選考方法なども、見直す必要がある。

王氏:

 中国はローカーボン経済を重視している。省エネ型というスローガンを掲げている。
 資源の利用効率をたかめ、エネルギー効率を高めていくことだ。森林などの吸収源などもそうだ。
 もうひとつ、人口の減少という要素もある。一人っ子政策により、温室効果ガスの削減に繋がるだろう。

小島氏:

 ありがとうございました。時間が来てしまった。危機を乗り越えた後の課題について、かなりコンセンサスがあるということがわかった。あとはどう実行するかだろう。危機克服後、市場経済の姿と、成長モデルをどのように築いていくかです。今は、100年に一度の転換期で、日中関係もその中にある。しかし危機という言葉には「クライシ」つまりチャンスという意味の両方があると言う人は多い。日本と中国というアジアの大国が協力して、それが出来るのだと思う。

項氏:

 金融危機がもたらしたプラスの面は、同じスタンスで対話ができるということだろう。色々な問題について話せるようになった。日中は多くの利益を共有している。これから広範に受け入れられるような価値観の創造につなげていきたいと思う。ありがとうございました。

親カテゴリ: 2009年 第5回
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