. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 2013年開催 第9回

【メディア対話】前半 / テーマ:両国民に必要な相互理解と相互尊重

メディア対話 「メディア対話」には、日中あわせて13人が参加し議論が行われました。日本側は小倉和夫氏(国際交流基金顧問)が司会を務め、会田弘継氏(共同通信特別編集委員)、伊藤俊行氏(読売新聞編集委員)、加藤青延氏(日本放送協会放送総局解説委員室解説主幹)、加藤洋一氏(朝日新聞編集委員)、山田孝男氏(毎日新聞専門編集委員)に加えて、言論NPO代表の工藤が参加。中国側は里丈氏(中国日報社アメリカ支局総編集長)が司会者を務め、金贏氏(中国社会科学院日本研究所副所長)、馬為公氏(中国国際放送局総編集長)、章念生氏(人民日報国際部副主任)、王衆一氏(「人民中国」雑誌社総編集長)、何蘭氏(中国メディア大学コミュニケーション研究院教授)、程蔓麗氏(北京大学ジャーナリズム・コミュニケーション学院副院長)の各氏が顔を揃えました。

 

工藤泰志(認定NPO法人言論NPO代表) まず、言論NPO代表の工藤が8月に発表された日中共同世論調査の結果について基調講演を行いました。同調査によると、両国民の相手国に対する印象が調査を始めて以来最悪になり、両国の9割近くの人々が相手国に対して悪い印象を持っているという結果になりました。また、日本人が自国のメディアの客観性を疑う一方で、中国の人々の多くが自国の報道は客観的であり、信頼に足るものだという結果になったことを指摘。中国側の日本に対するイメージで「覇権主義」「軍国主義」という答えが多くなったことについて、なぜそのような結果になったのか、と疑問を投げかけました。
 

金贏氏(中国社会科学院日本研究所副所長) 中国側からは、金氏が中国での独自の日中関係に関する世論調査の結果について基調報告を行いました。金氏は、昨年までは日本に対するポジティブな見方も多かったが、昨年、日本政府による尖閣諸島の国有化を契機に、日本の印象は大幅に悪化。その理由として、歴史問題、領土問題とともに、中国包囲網外交という現在の日本の外交政策があるとし、その結果が「軍国主義」や「覇権主義」という印象に繋がるのではないかと指摘しました。一方で、経済と文化交流の重要性についても語り、領土問題でそのような交流が途絶えてはいけない、と主張しました。

 

会田弘継氏(共同通信特別編集委員) 会田氏は、日本側のメディアの信頼度に対する世論調査を分析しました。日本人がメディアを信頼しなくなった理由として、日本人のメディア・リテラシーの向上をあげ、これを好意的に捉えました。また中国に関しては、近年、地方政治を中心に中国のメディア、特にインターネット・メディアの権力監視能力が増大し、人々の期待が世論調査の結果に影響を与えているのではないか、と述べました。

 章氏は新しいメディアについて言及。メディアの世論に対する役割はここ数年大きく変化しており、SNSなど新しいメディアの登場により、報道はよりスピーディーになってきている。このようなメディアの変化を機敏にとらえなければ、両国関係を改善することはできない、としました。

伊藤俊行氏(読売新聞編集委員) 伊藤氏もメディアを取り巻く環境の変化に上手く対応する重要性について語り、さらに日本側の世論調査の数字について、9割もの人が心の底から相手に対し悪い印象を持っているとは思えず、メディアが世論を牽引しているという主張は疑わしい、と疑問を呈しました。

 金氏は報道の深みについて説明。中国では人々がメディアにますますスピードを要求するようになり、1つのことについて深く考えることが減ってきていると指摘。例えば日本の貿易赤字に対する理解が浅く、日本の経済の潜在能力を分析できていない、お互いに対し深い分析を行うことでさらなる理解に繋げることができる、と主張しました。

王衆一氏(「人民中国」雑誌社総編集長) 王氏も報道の限界について言及し、特に日本における中国のPM2.5に関する過剰な報道を例に挙げ、日本のメディアは中国のネガティブな面に対する報道が多いと述べ、その上で、海外報道においては、その国の文化的背景の理解の必要性を説きました。

 

 

 

加藤洋一氏(朝日新聞編集委員) 加藤洋一氏は、中国メディアが政府の外交問題に対してその権力監視能力を発揮していないことを取り上げ、自分が取材をしていて一番、不満だったのは、日本政府が尖閣諸島を国有化した意図が、中国国民に正しく理解されていないことであるとし、中国メディアに尖閣諸島国有化を巡る情勢を正しく報道することを求めました。それとともにBBCの国別高感度ランキングで今年、日中両国の順位が低下したことを例に挙げ、日中が争うとお互いに損をすると述べました。

 

 

小倉和夫氏(国際交流基金顧問) 小倉氏は、日本と中国は経済や文化の交流が高まっているのに、相手国に対する印象が悪化しているというパラドックスに陥っているのではないか、と問題を提起しました。

 それに対し山田氏は、このパラドックスが生まれる理由は、反日デモと尖閣諸島に連日のように現れる中国船の報道にあるとし、報道の深みに関しては、先日放送されたNHKスペシャルの「中国激動」という番組を取り上げました。それは1年の時間をかけて撮影されたもので、中国の経済成長がもたらした人々の心の変化、宗教への傾倒などを描き、それに多くの日本人が共感したことに触れ、深みのある報道の例としました。

程蔓麗氏(北京大学ジャーナリズム・コミュニケーション学院副院長) 程氏は根本的な問題について議論すべきだと主張し、日中関係に置いて中国人が歴史に注目する一方で、日本人が現代に注目している、という問題を取り上げ、日本のメディアが過去の歴史についての報道を怠っていると主張しました。それに対して、会田氏は、中国のメディアは尖閣諸島の国有化のプロセスについての検証を怠っていると指摘し、メディアが国家の政策を検証する必要性を説きましたが、一方で、何氏からは日本のメディアこそ排他的であり、国家の政策に対してより懐疑的な報道をするべきであり、日本のメディアは欧米の政府やメディアの見解に流されがちであると述べました。

 


【メディア対話】後半 / テーマ:両国民に必要な相互理解と相互尊重

 メディア対話後半は、「日中両国民の"相互尊重"をメディアは、どう向上させるか」をテーマに議論することになっていましたが、小倉氏が「日中双方のメディアとも、島の話の報道を一切止め、もっと重要な問題を取り上げたらどうか」と挑発的に語りかけて始まりました。

 さらに「日本のメディアは大国・中国ばかり報道しているのではないか。中国人一人ひとりは何を考えているのか、そういうことがどれほど報道されているか、"中国"と"中国人"のイメージは違うはずだ」と双方のパネリストに問題提起しました。

 加藤洋一氏(朝日新聞社編集委員)から「尖閣問題一色は確かにおかしい。島の問題も中国人の生活も相対化することで、新たな視点が生まれてくるのではないか」と声が挙がりました。中国側からは、「日本には北方領土もあり、領土問題を報道しないわけにはいかないだろう」とした上で、「領土問題によって中日関係の将来を悲観的に見ずに、芸術面などこれまでに展開されてきた、様々な民間交流を忘れてはならない。歴史にはこだわらないが、それも忘れるわけにはいかない。相手の立場になって考えることが重要であり、それが両国関係の改善につながる」との発言がありました。

 さらに中国側からは、太平洋戦争時の侵略行為を、日本の教科書問題とからめて「日本の学生に対して、どのような教育をしてきたのか」との質問もあり、外交官時代、教科書問題を担当したことがある小倉氏は、「教科書問題は大変、難しい。根本的には日本人が日本の歴史をどのように見るか、の問題であって、それが明確には示されていない」と応えました。会田氏は「日本でも侵略はよくなかった、という教えもあり、いろいろな教育法がある。日本の近代化のネガティブな面もあった。しかし、日本と中国は1945年以降、冷戦体制で二つに分かれながら、今では世界2、3位の経済大国であり、アジアのサクセス・ストーリーである。体制は違っても、それを乗り越えて経済交流で協力してきた。これは冷戦下では大変なことであり、日中両国が一緒になれば、大きく発展できるという両国の優れた指導者たちの思いがあったからだ。東南アジアも米国も、日中は仲良くなければ困る、という立場であり、日中関係が止まれば、世界が止まるようになっている。今や日中関係は"世界の共有財"であり、小さな島の問題で、こんなにも大切な関係を崩してはいけないことを念頭に報道にあたるべきだ」と強調しました。

馬為公氏(中国国際放送局総編集長) 一方、馬為公氏は「中日のメディアに共通しているのは、私たちの報道が世論に影響していることだ。今回の世論調査では中日双方で相手国に対し、90%もの人たちが良くない印象を持っていることに、とても驚いている。その現状は私たちが報道した結果なのだ」と率直な思いを述べました。「相手国の理解について、メディアはとても大切な意義を持っている。文化交流イベントもメディアの役割であって、交流の場を作ることが大事だ。相手国への影響ということで、私たちも責任を負っている」とこれまでの経験を踏まえて話しました。

 これを受けるかたちで、小倉氏は、メディア対話の中に、人民日報といった一般紙だけでなく、女性誌、ファッション誌も参加させてはどうか、また、政治、経済、安保などのほか、文化、スポーツ、観光などについてフォーラムの中で話し合ってもいいのではないか、と提言。また、日中間で、社会的弱者の対話の場を考える必要があり、小さなことでも、心をうつ話を広く伝えるべきで、両国民の間に友情を作りあげてもらいたい、と双方のメディアに要望し、「島の問題も大きいが、人口動態、女性の活力登用など日中共通の問題を取り上げることで、双方のメディアは協力していけるのではないか」と期待を示しました。

里丈氏(中国日報社アメリカ支局総編集長) また、中国側の司会を務めた里氏は、「昔、胡耀邦先生(元総書記)が日本人青年3000人を、一緒に"共同の未来を築こうよ"と友好の船で中国に招待したことがあった。非常に懐かしい話だが、はるか遠いことのようで、あれは本当のことだったのか、とも思う。ともに将来に目を向けて議論の場を作ることこそ、我々中国側が意識していることである」と今回のメディア対話を総括しました。

 
 
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