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政治対話テーマ:新しい日中関係に問われる政治の責任

7月2日午後に開催された分科会「政治対話」では、日中合わせて9名による議論が行われました。日本側は、加藤紘一氏(元内閣官房長官、日中友好協会会長)、仙谷由人氏(元内閣官房長官、民主党代表代行)、中谷元氏(衆議院議員) 、藤井裕久氏(衆議院議員)が、中国側は、趙啓正氏(全国政治協商会議外事委員会主任)、葉小文氏(中央社会主文学院党組織書記)、陳健氏(元中国駐日本国特命全権大使)が参加し、司会は松本健一氏(元内閣官房参与)と呉寄南氏(上海国際問題研究所日本研究室主任)が務めました。 

 【前半】

松本健一(元内閣官房参与):最初に1時間半で時間を取りますので、最初に10分弱ずつお話を伺います。日中国交回復40周年を迎えて、これから日本と中国が今後政治的にどう役割を果たしていったらいいのか、についてディスカッションを行います。日本側と中国側で交互にやっていきます。

まず、仙谷由人先生は衆議院議員で、前の官房長官、今は民主党政策調査会長代行であります。次に、藤井裕久先生です。衆議院議員で前の財務大臣であります。続いて自民党政調会長代理で、元防衛庁長官の中谷元先生です。それから、遅れて到着しますが、元外務大臣で、官房長官もやられていた加藤紘一先生が来られます。そういった方々が集まっています。


120702 s o王:みなさんこんにちは。私は中国外交学院の教授の王帆です。司会として参加できて大変光栄でうれしく思います。日本側の参加者は非常に重量級のゲストばかりですし、中国側もまさにそうです。国内外で大変影響力のある、学術的にも、教育的にも政府の役職にもついています。パブリックディプロマシーで実践・研究をやっております。

まず、趙先生です。みなさん大変よくご存じの方です。外字委員会主任をお務めです。葉先生は大使です。陳先生は国連協会の会長です。では松本先生お願いします。


松本:ちょうど40年前が日中国交回復の年であり、今年は40周年です。これから両国が果たしていく政治的な役割を話していきたいと思います。また、尖閣の問題を扱ってもいいと思います。1年に一度こういう機会を設けるだけではなく、ワーキングチームを設置していけばいいのではないか、という案も現在出ております。仙谷先生いかがでしょうか。

120702 c engaku仙谷由人(元内閣官房長官、民主党代表代行):最初にご指名をいただきました。私は、2年前の今頃、官房長官の仕事が始まりました。そうして秋になりまして、漁船問題があり、その頃から、現実的に漁船の船長の逮捕とそれにまつわる中国当局のある種の政治的、あるいは、日本の社員が拘束されるようなこと、レアアースのことなど、いろんな問題に広がったときに、中国の各層の方と話し合いをして、どういう結末にするのか・そういう経験がございましたので、それらを加味しながら、雑感めいたことをお話しさせていただきます。表題にありますような、日中関係をどのようなものとして作ってくのか、日本の政治レベルで中国をどのように位置づけるのか、日本の政治家がどのような心構えでやっていくのか、こういうことに繋がってくるのだろうな、と思います。

今年は日中友好40年ということがよく言われます。司会の松本さんからも40年の総括ということが大変だ、重要だ、ということを問題として提起されているわけですが、言論NPOの世論調査にもあります通り、大変深化していく、日本人と中国人のある種の経緯が薄れ、嫌悪感が広がってきているのはどういうことなのか、にもつながります。

この30年間を総括しますと、貿易は300倍、人的交流は500倍になっております。中国のGDPは100倍以上になったのではないでしょうか。この間、友好回復としてODAが3兆5000億円でして、このODAという新しい取り組みは、継続案件は若干残っておりますが、新しく借款を供与するということは2007年に終わっております。私は、ODAが中国の経済発展に少しでも寄与したと考えております。恩着せがましいというわけではありませんが、改めて寄与したことを強調したいと思います。ただし、中国側としては的確に返済がなされているということも強調しなければなりません。1兆円はきちっと返却がなされています。日本人の専門家8000人が中国に渡り、この関係もWin-Winの関係になっているのは疑う余地がありません。アジア各地域と、日中韓、ASEANで見ても、アジアサプライチェーンネットワークが縦横無尽に構築されていることに気が付きます。この重層的なサプライチェーンが日本の成長、アジア、中国の成長、Win-Winになっている。課題は大変多いが、中国のGDP総額が日本を抜くという事態があり、日本人の中には、このことを快く思っていないが、中国が大国として振る舞うには、世界的にはコモンセンスがなく、突き破ろうとおもっている日本人も大変多くいます。ここに中国の予測から外れた行動と、IT化、ネットの持つよう多様性、拡散傾向が両国に多様な意見が噴出するという事態があり、政治の立場からインテグレートするのが難しい。漁船船長逮捕にまつわる両国の多様な意見噴出をどのように統合していくのか。統合して、両国の関係を、緊張感はあるけど戦略的互恵関係の中身をどう作っていくのか、隣国同士、民族同士、この折り合いがないと、もう一段高みの関係は作れないでしょう。

松本:仙谷さんはちょうど、漁船衝突事件の時に官房長官でした。その事件をふまえて、後に内閣官房参与に就任したという経歴があります。まずは中国側にバトンを渡します。

王:日本側の発言、感謝申しあげます。中日関係に存在する問題、関係を充実すべきとの話もありました。関係は複雑なので、これからも調節していくべきです。今後、どうやって深く充実させていくべきか。ともに助け合って船に乗っていく、そういう話をします。

120702 s cyo趙啓正(全国政治協商会議外事委員会主任)私は仙谷先生を踏まえて、発言内容は具体的でした。双方が必ずしも一致してない。率直に話せなければ意味はありません。率直な話が効果を生むと思います。何を考えているのか、少なくとも解決にはなる。ODAの話がありました。中国側はODAに関する感謝が足りないという話題がありました。15年前からそういう問題はありました。中国の新聞は中国向けで、上海市の副市長の時も、ODAで1億ドル、空港の設計に対して日本の支援がありましたが、なかなか感謝を表しはしなかった。これらは覚えていなければなりません。中日間の政府間のルートも難しかった。改善したいという人は多く、自分もそういう思いで中国側の一員として参加した。パブリックディプロマシーを実践した。つまり公共外交。民間と民間および政府と政府間で解決できるのはほんの一部で、これらを混合させた形で問題を解決していく。このフォーラムはますます重要になってきている。民間の好感度の印象は下がり、失望している。今後はこういう機会を続けていき、関係を改善させなければなりません。福田元首相が戦略的互恵関係に関する宣言、互いに強力なパートナー、脅威を作らない、長期的な関係は双方にとって唯一の選択肢です。互いに不満はあるものの、これは解決できていない。先にまず、お互いのために中国が中日復興をやっていこう。中日関係は1992年、よい時期でありました。その時は、天皇皇后が中国を訪問し、上海を訪れました。私は副市長として日程の調整をしておりました。夜歓迎晩さん会が開かれ、南京路、川沿いの道を案内しました。上海のホテルも上海蟹を用意しました、お口に合わなかったみたいでしたが、それによって心が通じた。晩餐会側の散歩でも、訪中の中で一番楽しかったと天皇が言いました。その10年後、反日デモが行われました。中国側は反日ではなく、靖国参拝への不満であると。しかし、日本側は反日といっている。表現が違う。5万人という説もある。北京にいて、状況を把握しました。中日関係は悪くしようと思えば簡単に悪くできる。民間的な問題についてオーバーアクションはよくなく、微妙な関係は大局を見据え、落ち着いて、順番を考えながら対処すべきです。

王:素晴らしいお話ありがとうございました。公共外交、民間外交、ソフトパワーの重要性についてのお話しでした。冷静な対応が必要だと。中日双方の人たちはお互いのために、有効な仕事をしている。永久に隣国であり、友好でないということは不可能であると思います。では、マイクをお返しします。

松本:趙先生と私はこの東京-北京フォーラムの古参ですね。そういう年月を繰り返すと話が通じ合うとも思います。藤井先生お願いします。

120702 s fujii藤井裕久(衆議院議員):一番年寄りですかね。40年前の国交樹立時の官房長官の秘書官をやっておりました。日本が中国大陸を侵略しました。これは間違いない。議論の中では厳しいものでしたが、結果としては非常に暖かいものとなりました。25日のパーティーで周首相が「中国で悪いことをやった日本人が悪いのではなく、日本にいた軍国主義者が悪い」と。文革の間にそういうことを話すことがどれほど大変なことか。周先生は20世紀最大の政治家である。領土問題が出たが、鄧小平先生も次の世代に任せましょう、と言った。これが生活の知恵だと。尖閣を決着させようという声に対して、先生たちの声に従うべきと言いました。開場はこれに恭順。領土問題はないけど、外交問題はある。決着をつけるということは武力闘争に発展しかねない。しかもそのことが先鋭化すると、各々の国に辺境のナショナリストが出てくる。健全なナショナリストは必要だが、偏狂なナショナリストは国を滅ぼし、世界を滅ぼす。領土問題はそのように考えております。日本の政治家はそういう問題に対してどう対処していくべきか。仙谷先生と日本の近現代史の調査会をやってきました。日本がこれまでどのような道を歩んできたのか、これを正確に伝えていかなければこのような問題は解決しない。教え方が悪いのか、若い議員は日本がどう歩んできたのかを知らない。正しい歴史館を若い議員に教えていかなければならない。中国1915年大家二十一か条要求が大一歩、という前提。正しい認識をしないと偏狂なナショナリストが出てくる。リトアニアに行ってきたのですが、ヨーロッパにはネオナチが10%くらいいます。これは怖い。ある日、そういう人たちが増える。政治の大事な役割は偏狂ナショナリストを減らす。さもないと関係が壊れかねない。中国も日本も1945年以降伸びてきた。東京オリンピック、大阪万博、北京五輪、上海万博。40年間があるが、どこも同じで発展してきた。日本は中国にGDPで負けた。しかし、負けたという表現はおかしくて、それは当たり前のこと。各々が伸びることが大事なのです。日本がヨーロッパのGDPを追い抜いたときも偉そうにはしなかった。それより、生活や社会保障の一体化とか、人々は幸せになった。中国が日本を凌駕したのはうれしいこと。中国の一人ひとりが幸せになることを祈っている。そうなると、民間の交流が一番大事になってくる。政府間の交流は国益がちらつく。経済も大事だが、文化交流やスポーツ交流などの民間交流が大事になってきます。あえて言うと、ドルと円の直接交換ができるようになり、東京市場でも上海市場でもいいスタートを切っています。円と元の直接交流も非常に大事で、国債を互いに持つのも、情報交換的な視点化ら非常に大事になってくると思います。

松本:藤井さんの話で出てきた、歴史を検討する研究会は日本の侵略政策は1915年に二十一か条の要求から始まっているという認識です。第2回の靖国問題沸騰時、歴史認識の部会は非公開でした。この考えはここでも驚かれました。五輪開催の44年差は何かという疑問。近代国家の始まりが44年の差がある。1868が近代日本の始まり。1911辛亥革命が中華民国という近代国家の始まりで、政治対話が公開できるのは進歩かなと思います。

王:先程の藤井先生の話ですが、若者たちに正しく歴史を伝える。経済規模を追いかけてばかりではだめだということです。細かい管理面ではまだまだなので、これからも先進国から学ぼうと思っています。

120702 s y葉小文(中央社会主文学院党組織書記):葉です。日本側の委員の阿南先生。日本とアメリカを見た場合、色々な問題があるが、価値観が同じだからすぐに解決できる。日本と中国は価値観が異なり、不信感があります。しかし、中国は市場経済を進め、価値観は進んだはずなのに、なぜ関係は改善しないのか。これを考えてきました。本質は価値観の対立だけではなく、中国の急速な発展があると思う。それらが不信感を生んでいる。外国にも中国というものを正しく見てほしい。政治エリートが自らの方法・偏見を、一旦横においてみる。文化交流をもっとすべき。これによって政治エリートたちの精神的な安定にもつながります。長期的に政治的な信頼感を深められる。行政に関する間違った判断を避けられる。この2つができれば関係はうまくいきます。誤解を広げずに恨みを大きくせずにものごとを悪くしない必要がある。面倒を起こすのは偏狂なナショナリズムの精神。極端な考え方を排除すること。この主張は簡単に出てくる。平和と発展が今の主流。

ここ100年近くは西側の自らを中心とする考え方が、民族対立・思想対立を生んでいる。対立がエスカレートするが、これは自己中心の考え方であり、極端な考え方です。極端主義を生みやすくなる。先進国は失業率上昇、金融危機があり、国民的な感情も脆弱になっている。理性的ではない国民の行動が起きやすくなる。政治家は表集めのために極端主義に流れやすく、感情的な選択をし、災難を生み出す。排他的な考え方、占領的な考え方、それらがエスカレートするとテロリズムにつながります。それらが増徴していることを目の当たりにしています。藤井先生が近現代史を研究していますが、軍国主義に駆り立てられた若者たちが国を侵略戦争へと巻き込んでいった。その日本を手本にすべきです。侵略主義は早めに排除すべきで、政治エリートが理性的な判断を呼びかけても、恨みを長く持ち続ける人たちがいます。

王:考え深い、極端主義、右翼についての話がありました。

松本:二・二六事件、北一輝についてのことは研究なので、反論したいところです。北一輝はファシストと呼ばれますが、辛亥革命を参考に国民の軍隊を作ろうとしました。これが私の考えです。それでは中谷さん、お願いします。

120702 s nakatani中谷元(衆議院議員):こんにちは、自民党の中谷です。一番若手です。54歳、昭和32年生まれであります。40年で人も街並みも変わりました。問題は戦争を知らない新しい世代が主役になってきたときに正しい歴史を作れるか。昔は中国の若者が反感し、今は日本の若者が反感する。ネトウヨ、ネット右翼がたくさんいる。Facebook革命の時代ということで、中東は国家が制御できなくなったが、ネトウヨの増加は、アメリカに安全保障を頼り、中国漁船の対応の甘さから出てきているわけです。こういった現状を両国のトップは懸案するべきです。まだ中国は鈍感。漁船だけではなく漁業調査船が尖閣を徘徊していて、このまま軍艦が来て占領されてしまうのではないか、と日本の若者は思っています。

日中ではシビリアンコントロールが異なります。日本はシビリアンコントロールがあり政府が軍を管理しています。中国は政治と軍は異なり、軍事に関しての決定権は軍人が強い権限を持っています。なかなか制御が難しい。問題が発生してもコントロールできないという状況になっている。問題はシビリアンコントロールで両国の政治家が話し合ったことが現場に反映されることであり、日本は力を入れて構築してきたところであるので、これからそういった仕組みをぜひ作っていって欲しいと思います。

松本:中谷さん、率直な意見をありがとうございます。軍事と統御は非常に大変な問題です。日本はちゃんとしているから平気で、政治家は軍事に触れません。東日本大震災時に、中国軍の病院船派遣を申し出たが、一言で断られ、理由説明がなかったことに海軍少将は怒っていました。事後、ちゃんと説明したらわかってくれた。日本の文民と中国の軍人の意思疎通の難しさがあると思います。

120702 s chin陳健(元中国駐日本国特命全権大使)午前中、福田さんが素晴らしい演説をしていました。中日両国の国交化正常化40年の際に原点に立ちかえなければならず、基礎を振り替えなければならないということでした。大道に立って問題を解決するべきです。これは素晴らしい。自分の意見の3つのうち福田さんと2つが一致しました。

相手を正確に認識しようということ。政治関係、政治信頼を築いていく。中日間のこれまでを振り返り、永久的に平和な関係を築こうというのが原点です。お互いに強力なパートナーであり、脅威にはなりません。唯一の選択氏は友好発展です。これからすると現在は問題がたくさん存在します。今までも将来も、日本を自分たちの潜在的な敵と中国が考えたことはありません。中日両国の経済体、GDPが逆転しました。この変化に日本はどう適用するか。アメリカが日本にアジア統治の役割を増やしていることをどうとらえるか。アメリカと中国の狭間でどうとるか。しかしながら、日本の方には頭を冷静にして、正確に隣国中国を見てほしいし、関係を築いて行って欲しい。お互いにお互いを戦略的なパートナーとして見てほしい。このような基礎を以て初めて、戦略的な相互信頼が成り立つのだと思います。

2つ目は、大同について複雑な問題を解決する。尖閣については、中日両国安定的な関係からすると、今すぐ解決はできない。のちの人に残して解決すべきで、この問題が両国の関係を脅かすなら、後世に託すべきです。ビンに入れてふたをする。漁船衝突がその蓋をあけてしまった。日本側の中国への好感度が下がったのも、ビンの中の悪魔の仕業です。どうビンに悪魔を閉じ込めるか。これは地域の平和安定を考える人が直面している課題です。この紛争という事実を変えることができないが、全世界に紛争地域だという認識を広める、日中間の好感度を下げる。極端なナショナリズムの影響を抑制するかを考えていかなければなりません。ナショナリストを消すのではなく、考え方を変えさせる。極端主義の声をかき消す。すべての日本の長期的な利益を考える人たちはぜひ声を上げてほしい。少数の声が聞こえないようにすべき。日本も中国もやっていくべき。政治的な雰囲気をつくっていく。

王:中日両国が今の関係の位置づけを見る。アメリカのアジア政策の影響を受けているという脅威。これが中日関係に悪い影響を与えています。小異を残して大同につく。複雑な問題はひとまず置いておくこと。共通の認識を以て棚上げすることです。

松本:アメリカがアジア政策を拡大し、日本もそこに巻き込もうとしている。アメリカ問題という取り組み方も必要なのではないか。では加藤先生にお願いしたいと思います。

120702 s kato加藤紘一(元内閣官房長官、日中友好協会会長):日中国交回復以来、天皇ご夫妻の訪中は大きな出来事です。官房長官として民族主義者を説得していました。天皇は上海蟹が好きですよ。中国の上海蟹より、東京で食べた方がおいしいから、それで口に合わなかったのでしょう。現場で食べたが微妙だった。


 


葉:
その当時は国内ではいいものではなかっただろうが、天皇にはいいものをお出ししたはずです。

加藤:まぁいいでしょう。ナショナリズムが強くなっているけど、日本には3種類あります。国境線や領土をめぐるナショナリズム。これを掻き立てれば政治的人気が出るが、いずれかは自分の身も滅ぼす。2つ目は、学力やGNPやメダル数などの競争のナショナリズム。これは健全です。3番目は、自国の文化や伝統に誇りを持つナショナリズム。これらが一番大事で、競争や争いは魅力を失うはず。日本は、自分たちの自慢が見えなくなっているからではないか。明治維新以来、脱亜入欧・富国強兵のグローバリゼーション一筋で、過去60年間、思想が止まっていたからよくない。仙谷さんに左翼かって呼ばれた人はどんな気持ちだっただろうか。民主党議員が保守派ですからって言っていた。

中国もいずれ陥る悩みです。グローバリゼーションで先進国の豊かさを追いかけてきたが、むなしくなってその先にあるものはなんなのか、となる。上海万博の中国館は何も魅力がなかった。30年前の日本と同じで、今の上海は空気が汚れ、魅力のない都市になっている。今はNYみたい。北京はそこに気付いたようで。韓国はグローバリゼーションの魅力にとらわれずに自分の国の魅力について考えている。日本も、民主党も自民党もまだ打ち出していないバナー、旗印を持ち出さないといけない。何も生きがいにするか。グローバリゼーションの代替を中国に先んじて考えるのが日本の役目。アメリカ問題には期待している。

松本:日本が先んじて近代化、先んじてグローバリゼーションの豊かさを手にした。中国も遅れて手にした。これは同じ方向性である。これからは、その先に何を求めるかを考えていくべきです。

 

政治対話テーマ:新しい日中関係に問われる政治の責任

【後半】

松本健一(元内閣官房参与):それでは後半のセッションを始めたいと思います。フロアから集まっている質問をまとめつつ質問していきたいと思います。最初は、「日本と中国の歴史観は大きく隔たりがあるのではないか?日本は中国を侵略したが、アメリカに侵略されたのも事実。日本が中国を侵略したのは事実だ、という話があったが、開き直っている英米はどうなる」ということについて。

藤井裕久(衆議院議員):まず私は、近現代史は明治維新からととらえて勉強してもらっている。鎖国から開国になった。富国強兵が言われた。「富国」と「強兵」、この二つは全く別物。資源配分としても全く違う。「殖産興業」も「富国」とはまた異なるもの。その中で、伊藤博文になると富国強兵より実業という意味での殖産興業に力を入れた。専修学校などが例。そういうことで力をつけて、日清戦争と日露先生に勝っていった。日露戦争後に日本はおごり高ぶった。その典型が対華二十一カ条の要求。これは侵略的思想で明らかに間違い。その延長線上で満州事変や日中戦争がある。英米については、よその国がどうあろうと、日本がそのまねをするのはよくない。イギリスが中国を侵略したのは事実。それを日本が真似したのがおかしい。

松本:ありがとうございました。人民元と円はあとで聞きます。次は「歴史認識は国だけではなく個人レベルで異なるのでは?」です。

中谷元(衆議院議員):韓国の歴史ドラマにはまっています。日清戦争直前の王様殺害を描いたドラマを見ました。朝鮮側から書かれたわけですが、陸奥宗光や伊藤博文がいて、中国ロシアに囲まれて、朝鮮は日本の攻略によって終わった。防衛庁長官の時に、訪韓したときに王宮に行って、殺害現場で頭を下げた。

国の主権を侵したり、言葉まで変えたりというのはやりすぎ。中国に対しても一線を越えてとりかえしのつかないところまでいってしまった。昭和天皇も、厳粛な気持ちで国の暴走に歯止めをかけようとしたが、ナショナリズムというどうしようもない止められない状態になってしまった。それを止めるのが政治の役割。国民に嫌われてもやるべき。謙虚にその教訓を生かさなければならない。

松本:この問題は中国側にもこたえてほしい。次は、「尖閣の漁船衝突問題では決定的な対立を避けるため、船長釈放というしなやかな対応をしたが、それにより、中国の影響力を強め、結果として、対立が深まってしまうのでは?」「日本と中国で、対応のスピード感の差を感じた。」という点について。

仙谷由人(元内閣官房長官、民主党代表代行):私はこの問題に対処するときに日本の強硬論者、極端なことをおっしゃる方には、領海警備の実態がどうであるのか、その構えがどうなのか、自衛隊を中心とした日本の海域防衛体制がどうなのかを、まったく考えずに、「中国がけしからんからやっつけろ」と言っていた。大変残念。

日本はあの年の暮れに防衛大綱を変更した。ソ連相手(陸重視)から航空戦力重視に変わった。中国が漁業監視を強化しているということは、日本もわかっていた。海上保安庁も漁船の大量出現を把握していた。日本からすれば領海侵犯。そんな中で主体的に警備を強化するというのは当然。その背後で、防衛戦略の見直しをしていくべき。それらの整備がないまま、大量の漁船を24時間監視することの現実味を考えるべき。中国だって過激なことはしないだろうという観測。中国と軍事的に対峙するというのは一つの道だが、犠牲も大きく、私はそうすべきだと思わない。

どうしても解けない何かがある。民主主義・市場経済と一党独裁の違いか?相対主義を根本では認めないのでは?司法手続が絡んでいると政治が介入できるという建前と日本の政治と司法の独立という差異。そこで船長の処遇に関してああいう結果となった。中国も、知的財産権などの問題でもそうだが、司法の独立を勝ち取ってほしい。

松本:司法の独立は、日本の決定権の遅さにも関わってくる。誰か反論の方はいますか?

趙啓正(全国政治協商会議外事委員会主任):私は、決してこの事件にかかわったわけではないが、政治協商会議の委員から観察した。管内閣発足直後のこと。衝突はこれまでもあったが日本の国内法で処理されたことはなかった。これは中国としては唐突だったという印象を受けた。尖閣は日本の領土だという問題は中国としては認められない。

船長個人は学歴が高くなくて、日中関係についてもよくわかっていない。衝突に関しての経緯はよくわからない。なぜそういう判断を下したのかはわからない。彼はヒーローではありません。すぐに保釈をされて、仙石先生が英知を働かせて保釈をされたわけですが、それは非常にありがたい。

今後またこういうことが起こるのか。中国政府は、尖閣諸島に上陸しないよう奨励している。日本の政治家は上陸していますが、中国はそんなことを勧めていない。これは大きな差。中国の若者はこれについて政府に不満を持っている。日本の政治家は上陸しているんだぞ、と言っている。寛容な態度で処理をしていけばいいと思っている。刺激的な行動はさらに刺激的な行動を呼ぶ。

松本:ありがとうございました。こちらの主張があればそちらの主張もある。歴史学者としては、日本側の主張は明治18年。中国は1968年という認識があるが、これは近代化の年とかかわってくる。国際社会に入った時間差の問題もあるのではないか。グローバリゼーションが始まる時期の差がある。王さん質問をお願いします。

王:先生、陳大使が言いたいことがあるそうです。

陳:領土問題を次の世代に残す、と言っているが、次の世代とはいつか?という質問がありました。センシティブではなくなったときがその時だと私は思います。ナショナリズムの感情をあおりやすい問題であるので、ともに開発する方法を思いついた時こそその時だと思います。お互い挑発をあおらない。

王:歴史観について葉さんお願いします

葉小文(中央社会主文学院党組織書記):いわゆる漁船の問題ですが、あまり話したくなかった。船長が逮捕されたことは訳が分からない。卵が石にぶつかったといった感じ。係争地で現代的な保安庁の船と木造の漁船がぶつかったということ。中国には13億の人がいる。政府が柔らかい態度を取りたくても、13億の人間が許さないということがある。陳大使が言ったように、ビンの中の化け物の行動によって両国の関係性が損なわれていいのか。この化け物は何でもできる。船にぶつかったり、火を放ったりできる。両国はこの化け物を抑え込むことが大事。もし無理なら舞台で踊らせればいい。お互いに冷静さを取り戻すことを意識するべき。

我々は、国交正常化時からみて後の世代にあたるが、まだ領土をとられることにお互い同意しない。なので、時間をかけてゆっくり解決していくこと。こんなことで日中関係が崩れていいのでしょうか。どちらも相手を駆逐することなんてできない。お互い知恵を出し合って解決すべき。

陳健(元中国駐日本国特命全権大使):尖閣問題がなくても日本は復活しますし、ある日地震によって尖閣諸島がなくなるかもしれない。そうすれば問題はなくなりますね。

松本:東京-北京フォーラムでも、「次の世代」はいつかということは言われてきた。政府間だと簡単に感情的な対立になってしまう。よってこのフォーラムからワーキングチームを作って、議論方法の提示やお互いの意見共有などの議論を実務的に始めていく。これは政府ではできないことなので、やっていくべきなのかという声が実行委員会で挙がっている。

次の質問は「グローバリゼーションの次にくるものは、誇りのナショナリズム。その誇りをお互い考える時がきている。そして、協働で考えるべきではないか?また、日本の誇りとはなにか?」についてです。

加藤紘一(元内閣官房長官、日中友好協会会長)::それに30秒か1分で応えられたら苦労しないがな。共同で考えるのは必要。中国が今のような、国土づくりでとことんまでグローバリゼーションを追及するような国ではない。そのような方向を、いつまでもやっていくようには思えない。中国で公共投資とはいえ地方で財源は賄う。そのうち何のためにそんなことをするのかと、地方政府が倒される時が来るのではないか。韓国の場合は、自分たちの伝統と発展の共存についてよく考えている。

日本の誇りは日本人の自然観。自然に恵まれてきたから、何でも神様にしちゃう。仏教でも天皇でも儒教でもなく、神道。自然と人間を結ぶのが神道でそれを仕切るのが天皇。松本さんはそれを考えた一番偉い人。震災以降、みんな東北がんばれ東北がんばれ、と言っている。一年経っているのに、どうやって生活していくのかな、とじっと見ている。神戸は3か月で終わった。東北のGNPは日本のGNPの6%。その状態で、東北がんばれをやっている。東北の暮らしについて書くといまだに売れる。

松本:自然と地域の問題、つまり故郷の問題になりうる。愛国心ではなく愛郷心。これが東北の問題を考え続けている根本。

仙石:共同で誇りを考える、価値観のすり合わせをすればいいという指摘があったが、どうも中国の方と日本人が価値的にはすれ違いになってしまうのではないかと。中国は国内で大きな矛盾を発展とともに抱えている。日本は失われた20年を克服できないでいる。中国と日本が解決しなければならない問題の中で、共通課題もあるはず。国境を越えて解決しなければならない問題もある。日本にも中国にも右派・左派がある。

感染症の問題を国内で解決できないなら、日中韓、あるいはそこに台湾を加えた地域。防災・災害対策についてもそう。エネルギーの対応策についても喫緊の課題。石炭を使うのか、原子力化、ロシアの天然ガスか。共同で解決できるはずである。スマートタウン、スマートグリッドなど。風力発電は日本よりもずっと発達している。アングロサクソン的金融システムに対応して、アジア的金融システムは存在するのであろうか。この模索。日中韓がこれらの問題にもっと共同で対処していくことはできるはず。部分的には政府間でもう始まっている。この3国はアジア全体をいい方にも悪い方にも導きうる。これらなしに戦略的互恵関係の構築は不可能である。ナショナリズムめいた発言はメジャーなジャーナリズムまでするようになってきている。これには政治が毅然と立ち向かわなければならない。

松本:ネット右翼、世論の問題も質問来ています。日中で、共同で取り組める問題はまだまだ探せばあるということでした。円と元の直接取引についてが、一例ですかね。6月1日に始まったこの取引ですが、まだまだ100億程度で規模は小さい。この認識について、では藤井さんお願いします。

藤井:まず、世界の経済力の中でアメリカに次いで中国が二番目の経済力を持っている、これを認めなければならない。次に人民元をもっと広めていくべき。文化などは広まっているが、金融はまだまだ。金融は世界統一のシステムなのに、元だけが独自の動きをすることは許されない。

第二次世界大戦の元凶となった通貨競争を防ぐために、ブレトン・ウッズ体制で基軸通貨をドルにしようということになった。ケインズは新たな基準を作るべきだと反対した。アメリカドルは続落。1ドル=360円の時代から、円に対して高くなったことはない。ここらで通貨機軸はドルだという認識は見直すべきなのではないか。人民元にかけられている世界の期待は大きい。独自の動きなどは認められないと思っている。

松本:世界が一つになる。金融はその動きをもろに反映している。その中で人民元に国際化が求められているという声に対してはどうでしょうか。

王:こっちにも質問が来ているので、答えます。中国の外貨準備高は日本を超えている。外国の援助を行っている。それを政府は公表すべきではないのか?という質問ですね。

葉:中国のGDPは2番目ではあるが、そうは思っていない。質としては日本と比べられない。人口が多いので一人当たりで見ても、豊かな国とは言えない。中国はそこまで発達しきっていない。お金があり余っているから外国の支援をしているわけではない。日本の地震も支援すべき。四川地震も日本は支援してくれた。災害ではお互い助けるのが当たり前。中国では一人ひとりの暮らしは豊かではないけど、そういう理念で支援している。

中国は反日教育をしてきた、という声があったが、南京大虐殺も忘れられないが、それで恨みを持ち続けるわけにもいかない。日中の間では絶対に戦争は起きないと思っている。日本にも、強制労働させられた中国人の骨を返してくれている日本人もいる。歴史を鑑にするべきであり、恨みにするべきではない。中国は大きいので日本軍を悪く放映する番組もあるが、政府としてはそれを許してはならないと思っている。互いに文化としても影響を与えてきた。20世紀では日本は中国を侵略してきたが、それ以上に長い間交流してきた。対立している50年間ではなく、2000年の歴史を鑑にするべき。

松本:ちょっと質問です。2000年と50年の歴史のどっちが大事か。教育やメディアにより世論形成しているわけですが、漁船衝突という目の前の出来事でネットが爆発しているわけですが、これについてはどうでしょうか。中谷先生。

王:その前に、話を最後まで続けさせてほしい。

陳:2000年の方が大事。50年の歴史の傷の方が大きいが、将来のためにはそれではよくない。ネットはだれがやっているのかもわからないし、中国国民の代表ではない。

葉さんに私も同意。日本の若者が歴史をよくわかっていないということ。抗日戦争の教材などがあるが、まずは早稲田の学生さんに応えようと思う。「日米同盟は日中関係発展の阻害となりうるか?」ここで日本はどう思っているのか。

中国側としては、日本はアメリカを利用として中国をけん制しようとしている。オーストラリアやインドなども同じ。日本はアメリカの圧力を受けて、中国をけん制しているのではなく、アメリカを利用して意図的にけん制をしている。しかし、中国に対しての判断もアメリカに対する判断も間違わないでほしい。中国を脅威だと思わないでほしい。中国は、アメリカが中国の台頭を抑制することを心配している。アメリカが抑制しようと考えていることを懸念している。日本の、アメリカを利用した中国へのけん制は間違いである。

王:頭越しの判断はよくないということでした。比較的若い中国人として発言をしますが、戦争を題材にすることはドラマとしてとっているわけで、若干コメディめいている。歴史を題材にすることですが、歴史観の教育、という意味では教科書の方が問題である。アメリカの研究をしているのですが・・・

松本:ちょっとこっちに戻しますね。さて、日本の世論にはネットの役割が大きいのではないでしょうか。中谷さんいかがでしょうか。

中谷:ネット中毒というのがありますが、画面を見てないと落ち着かない人は多い。ネットの情報は過激で刺激的。麻薬のよう。平常心を失いそれを求めてしまう。絆の心、和の心のような丸い心が日本人をルーツ。ネットは使いこなすものである。原理原則を考える。

中国はマスコミコントロール・ネットコントロールがなされているので、自由な発言がなされていない。北朝鮮においても、体制転換があって、世界の動きを北朝鮮国民がわかっていないということは非常に損をしている。東アジアのなかで安全保障という問題からも、中国には働きかけてほしい。ネットは使っていくツール。

松本:中国側に戻します。最後の5分をどうぞ。

葉:午後の問題は非常に重要な問題で、率直な意見も上げられた。個人の考えですが、考え方において中日では異なる。これは考えるときに注意しなければならない。日本は細かいところ、中国は全体的なところを気にする。討論する場合は、我慢強く聞いて、相手の理解に努めるべき。それがなくては、議論は進みません。今回のテーマはよかったが時間がなかった。しかし、今後の考え方の指針を学ぶにはいい場であったのではないでしょうか。両国関係だけではなく、世界レベルで考えるべき。アメリカ問題についてはここでは時間の問題でやめておきましょう。

松本:最後に1分ありますが、どなたか言い足りないことがあれば。いかがでしょうか

陳:一つあるのですが、中日関係とアメリカは非常に密接な関係がある。日本の関係者は日中米の三カ国の関係の展望はどう考えているか?

仙石:本音トークで、利害関係をぶつけ、ある意味取引、ある意味妥協の落としどころを見つけていく。そしてそれではすまないところが今後増えていくなという実感。その時には、お互い大事な前提などをしっかり踏まえていくべき。政治に関することは、独立した司法機関が解決するべき、などの状態を互いに認め合い、確認しないと、相手の行動の予測が難しくなり、力での押し合いになってしまう。東シナ海のガス田開発についても、合意してから実際には進んでいない。

葉:5分、いや30秒ください。中日米は大きな三国なので、みんなで高いところにたってものを見るべき。太平洋はどの国にとっても手放せない。海は繋がっている。太平洋のような広い心で取り組むべき。

松本:太平洋でつながっているという話になりました。原発事故では、その太平洋に勝手に汚染水を放出し、通告もしなかった。これについても十分に議論できていない。経済・金融が一体化する中で、日中が考え、ファクターとしてアメリカを加えていこうということなのでしょうか。

藤井:中国もGDP全体で見れば、日本に勝っているが、一人当たりで言えばまだまだ低い。でも一人当たりでも日本やアメリカに追いつこうとはしないべき。何も意味がない。もうやめましょう。

松本:趙先生、最後にどうぞ。

趙:三カ国の関係のなかで大事なのは、平等ということ。日米は平等ではない。それでは三カ国関係において問題になる。

松本:それでは終わりにします。

王:みなさまありがとうございました。

以上

親カテゴリ: 2011年 第7回
カテゴリ: 発言録