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【発言録】 政治対話(全体会議 後半)

 

 発言録 政治対話全体会議後半1

発言録 政治対話全体会議後半2日本側司会
松本 健一氏(評論家、麗澤大学教授)

 それでは始めます。日本側は私、松本健一が、中国側は劉先生にお願いしたいと思います。時間の関係で、各先生に最初に8分ずつお話しいただいて出来るだけ時間を短縮して、そのあと政治家相互の対話、その後フロアからの対話を設けたいと思います。

 「アジア・太平洋の未来と政治の責任、グローバリズムと国家の役割、アジアアイデンティティーとは何か」と言う抽象的なテーマとなっていますが、メインテーマは、先程陳昊蘇先生からあった、日本の「脱亜論」になると思います。グローバライゼーションは、日本の近代化に寄与したかもしれないが、そこには大きなマイナスも含まれているのではないか、そういう時点に来ていると言うことであります。その中で、日本とアジアの関係性について考えて行こうと言うものであります。福澤諭吉が脱亜論を唱えてから、125年経っております。脱亜の路線に立った国は、モデルの国をイギリスとするか、フランスとするか、はたまたドイツとするかを選択しなければならなかった。戦後日本は、西洋をモデルとしました。昨年行われた政権交代と言うのは、自民党から民主党への政権交代ではなかった。昨年、中国のオリエンタルモーニングポストが報じておりますが、民主党への政権交代は、国内的には政治主導、国外的にはアジア重視といった脱亜路線に立つ大きな政権交代だったと言えます。それは鳩山前首相が30~40年先にはアジア共同体というものを考えていて、アジアの未来のかたちを考えていると言うことであります。アジアの未来と言うのを、来年や再来年ではなく2025年と取って貰いたいのです。

 2025年とは何かと申しますと、中国とインド、日本の世界におけるGDPの割合は順に、15%、10%、5%となり、アメリカは第2の経済大国になっていることでしょう。そういう新しい時点、つまり、中国とインド、日本で世界のGDPの30%、韓国などを入れると40%となるような時期、その時に日中は未知の文明に対してどういう行動を取るのかを考えなければならないのであり、日中の政治家の人々の、多くの考えるべきテーマであると思います。そのようにアジアの政権を考えると言いながらも、要するに、日本の政治はアジア重視に変わったと言いながらも、そう簡単には達成しているとは言えないのが現実です。この辺の話は自民党の加藤紘一先生から出るのではないかと思いますが。それらの変化を具体的に実現するような、日本の政局の問題とも絡めて話したいと思います。まず、現在の日中友好協会の会長でもある加藤紘一先生に話を聞きたいと思います。

 

発言録 政治対話全体会議後半3
加藤 紘一氏(衆議院議員)

 ご紹介に預かりました、加藤です。今、松本先生の実際のサマリー、それから紹介を受けてからでありますと、今日の私の発言が一番難しいと思っております(笑)。言葉はそうですが、日本の政局をみると、グローバライゼーションに対してどんな体制を取るのか、脱亜に対してどういう志を持ち、行動しているのか、そう簡単には喋れないんですね。

 昔の孔子様が、何千年前おっしゃった素晴らしい言葉がありますが、それを言う現在の政治家たちの言葉がみんな軽くなった。政界から引退する人が仕切っていたりですね(笑)。民主党が政権を取ったと言うことはどういうことか、非自民、政権交代、官僚政治からの脱却、アメリカからの自立、更には国民の感覚に沿った、新しい政治感覚が期待されていましたが、それが見えない。小沢さんと菅さんはなぜ戦っているのか、あの二人の戦いからは政治の姿は見えない。だからといって、自民党に支持が集まってくるわけでもない。ある意味一時の気の迷いで、みんなの党に国民の気持ちが途中下車し、自民党に落ちて来ない。私は、この混乱の意味を、自民党と言うものが、反共イデオロギーで約40年激しい戦いを社会党とやってそれなりに存在感があったからこそと思います。

 もう1つは明治維新、戦後復興、この国を引っ張ってきた対欧米キャッチアップといった、若干マーケットメカニズムが強すぎる現状に国民が抵抗し始めたのではないかと思います。スーパーマーケットの台頭で、地方産業がダメになったように。つまり、アメリカ型の発展を続けて良いのだろうかという悩みだろうと思います。私はこういう形は、いずれ中国もインドも直面する問題であると思っています。日本が持っていたようなエネルギーを、今の中国が持っていることを羨ましく感じますが、いずれ中国も今の日本と同じような悩みに直面することになると思います。だからこそ日本と中国が、グローバライゼーションに従って良いのかという悩みを打ち明けながら、率直に話し合うべきだと思います。そういう意味では陳昊蘇さんが、それぞれの国でこの問題をどう取り扱うのか、さっきのスピーチでおっしゃったし、中国大使は「それぞれの国に合った発展の道筋」といっているが、まさに論じなければならないのはある種のリザベーションであって、保護主義にならないためにはどういうリザベーションが良いのかということであります。表現出来ないそれぞれの国のリザベーションの置き方、日本で言うと技術立国で行きますと言うもの、その一方で人権を無視するものはだめ、あまりにも地域社会を壊すようなものにはNOと言わなければならないと思います。松本さんがこの会の問題意識をおっしゃいましたが、松本さんのそれを野党も与党も共有できれば、日本は整備されると思いますよ。

松本 健一氏 お話の肝要なところは、日本は今、国民がグローバライゼーションに抵抗している、そしてその問題の解決方法が党で異なると言うことですね。今後も、党としての意見の違いが少なくとも出てくるが、グローバライゼーションの世界に入っているのは確かであると。中国ではまだ国民が抵抗し始めていないが、いずれは同じような問題が生じてくるのではないかというお話でした。では、中国側は劉先生にお任せしたいと思います。

 

発言録 政治対話全体会議後半4中国側司会
劉江永氏(清華大学国際問題研究所 副所長、教授)

 本日、松本先生と共に政治対話の進行を行います、清華大学の教授を務めております劉江永です。アジェンダに従ってまず、中国側のパネリストの紹介をしたいと思いますが、紹介は必要ないかとも思います。なぜなら李肇星さんは中国外交のスター的存在であるからです。更に、2番目にご紹介すべき趙啓正先生は、このフォーラムの生みの親であり、我々のリーダーであります。物理学の専門家でいらっしゃいます。2006年のフォーラム時に「公共外交」という言葉をお使いになりました。我々は最初、その意味が分かりませんでしたが、今では中国政府に認められた言葉であります。中国外交の上でも、政府から協力を求められている方であります。そして、このお二人に、一緒に発言をして頂くことは中国ではめったにありません。とても貴重な機会でございます。李肇星先生はお人柄が素晴らしく、色々と学ばなければなりません。以前私が、2冊の本を書いてお渡ししましたら、自ら手紙を書いて返してくれました。沢山のお知り合いがいらっしゃるので、手書きの手紙をお書きになることは、大変だと思います。しかし、先生はそれをなさいました。私には真似できないことでございます。麻生元外相の時には、両国の友好関係の改善に全力を尽くされました。例えばトイレの中でも、麻生元外相と共に中日関係の改善を図ったと伺っております。

発言録 政治対話全体会議後半5
李肇星氏(全人代報道官、前外務大臣)

 尊敬する安斎氏、日中の実行委員の皆さま、日本中国の友人の皆さま、本当にこの心と心を結び付ける対話に参加できて嬉しいです。中国は未だに発展途上国です。「世界で最大の発展途上国」というのが中国の体制です。今から2、3紹介したいと思います。2010年中国のGDPは4.9兆ドル、これは世界3位で、アメリカ、日本に次ぐものです。中国の主な農産製品は2.2兆ドル、外貨は2.4兆ドルなどとなっており、これがあったからこそ全世界の人口の約20%の人口の食糧問題を解決しました。一方で、生産性は未だに低いです。そういった長く存在している初歩的な問題は未解決なのです。例えば、経済構造は農業が中心ですが、農業は天候などのリスクが高く脆弱です。技術による経済成長は48%、先進国に比べて3ポイント低くなっています。世界平均レベルと比べて30ポイントも低いです。日本と比べてもなおです。2つ目として、労働力と言った要素、コストが安いと言った要素があります。GDPを作りだすための消費エネルギーは日本の8倍です。しかし、コア技術がなく、有名ブランドもありません。市場での販売は全て海外であり、労働集約型の経済が中国と言えるのです。

 途上国の間では発展が著しいとはいうものの、中国は依然として都市化、過疎化になっており、平均所得は世界でも低いレベルです。農村部の1人当たりの収入は5130元、すなわち700米ドルであり、これは都市部の30%弱となっています。このように、中国では地方との格差の問題が激しいのです。また、多くの内陸部や農村部の国民は、教育や病気の抱えています。台湾、香港、マカオを除いて2400万の新規雇用を必要としています。700万人の退職者がいる一方で、農村では2億5000万の働き手が存在しています。可処分所得は8倍、農村部は7.6倍と割と高く、中国の貧困人口は2億6000万人減りました。1409年には35歳だった平均寿命も、昨年73歳に増えました。しかしご存じの通り日本の国民の寿命は80歳、世界でもトップクラスです。また、教育も普及して、大人の識字率は93%を超えるようになりました。しかし日本では全ての人が高校に通っています。中国の大学進学率は24.4%(グロス)、一方日本は90%を超え、義務教育も普及しています。中国の暮らしは改善されていますが、いかんせん人が多い。日本の人口は11分の1です。1日1ドルで生活している人間は中国では1億5000万人を下回る状態になりましたが、これは日本の全国民に相当します。中国で最も発展しているのは上海で、そこに詳しい趙啓正さんは私の友人であり、国連前副事務総長、日本駐在大使を務められた方ですが、その方に伺ったところ7平米から33平米になったということです。すごい発展です。同時に、万博が開催されている上海でも700万平米のパークがあるそうです。しかし趙啓正さんに聞いたところ、水洗トイレはないそうです。中国は文字どおりの途上国なのです。今後も、日本との協力を強化し、日本に学び、世界各国の人と対等に、中国の国民が豊かに幸せになるような国造りに努めて行きたいと思います。中国国民が楽しく、健康に、尊厳があるように生活できるように。

親カテゴリ: 2010年 第6回
カテゴリ: 発言録